尾崎農園

農業未経験から始まった、人生を変える挑戦

会社員として安定した生活を送っていた尾﨑信介さんの人生が大きく動いたのは、2017年のことだった。化粧品通販会社に勤める中で、突然、実家の畑を継がないかという話が舞い込む。兄が始めた農業を体調不良で続けられなくなったことがきっかけだった。

農業経験はゼロ。家系も代々の農家ではない。それでも「おもしろそう」という直感と、妻の「やってみたら?」という一言が背中を押した。こうして、サラリーマンから農業経営者への挑戦が始まった。

最初の一年は修行の日々だった。親戚の農家で基礎を学びながら、野菜づくりの現実を知る。自然は教科書どおりにはいかない。同じ畑の黒土でも条件が少し違うだけで、大根のほとんどが腐ってしまったこともある。努力がそのまま結果につながらない世界に、何度も壁を感じた。

しかし、地域の農家たちの助言が支えとなった。失敗を隠さず相談し、改善を重ねるうちに、農業は「自然をコントロールする仕事」ではなく「自然と付き合う仕事」だと理解していった。

限られた畑面積で経営を成立させることも大きな課題だった。珍しい西洋野菜への挑戦は販売面で苦戦し、方向転換を決意。現在は少量多品種栽培へ舵を切り、効率的な作付け管理によって収益性を高めている。規模が小さいからこそ手作業で管理ができ、除草剤に頼らない安心・安全な野菜づくりという強みにもつながった。

住宅街や学校に囲まれた都市農地という環境は、地域との距離を近づけた。畑で声をかけられ、「おいしかった」と直接伝えられる瞬間が増えていく。会社員時代には感じられなかった、仕事と生活がつながる実感がそこにあった。

農業を始めて約8年。今では自信を持って野菜を届けられる農家となった尾﨑さんにとって、最大の変化は働き方だった。人間関係のストレスから解放され、自分の意思で仕事を組み立てる日々。同世代農家との交流も広がり、農業は孤独な仕事ではなくなった。

研究熱心に栽培を追求する夫と、地域との関係を自然体で育む妻。夫婦二人三脚で歩む尾﨑農園の姿は、「農業=継ぐもの」という従来のイメージを超え、都市で新しく始める起業としての農業の可能性を示している。

 

農業は特別な人だけの仕事ではない。挑戦する覚悟と、支え合う人がいれば、人生は畑からでも再スタートできる――尾﨑さんの歩みは、それを静かに証明している。

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